【事例】株式会社ビズリーチ
当社監訳書籍『アジャイルデータモデリング - 組織にデータ分析を広めるためのテーブル設計ガイド』の寄稿事例をWEB掲載しています。
- 本書における寄稿事例の位置づけについては寄稿事例について を参照してください。
- 本ページに掲載している画像および図表については、いずれも同書籍からの引用となります。
株式会社ビズリーチ
寄稿者:CTO室データソリューショングループ 前田晴美
株式会社ビズリーチは、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」など、HR TechのプラットフォームやSaaS事業を運営しています。風音屋では2年以上に渡ってビズリーチのデータ利活用を支援してまいりました。
ビズリーチのデータ利活用を推進する過程は、本書の特徴である「アジャイル」「データモデリング」「コラボレーション」という3つのキーワードを体現しているように思います。個々のテクニカルな手法だけではなく、根底にある価値観をぜひ学び取っていただければと思います。
データソリューショングループが目指すのは、「データ利活用の質を高めること」と「データ利活用者を増やすこと」です。組織にはデータアナリストやデータエンジニアが在籍し、社内でデータを活用している社員向けにデータ基盤構築、データ整備、集計・分析、データ利活用に向けた教育を担当しています。
利活用の「質」と「量」を高めるために、図1に示す「データ利活用の推進サイクル」という流れを実施してきました。①データ利活用者から問い合わせを受ける、②勉強会やワークショップによって要求・課題の全体像を整理する、③中間テーブルやダッシュボードを構築する、④取り組みの結果を振り返って次の①に繋げる、という流れになります。
図1 データ利活用の推進サイクル
「①問い合わせ対応」では、チャットツール「Slack」に問い合わせの専用窓口を用意しています。マーケティング部門やプロダクト部門、営業部門など、ビズリーチの全社内からデータに関する依頼を受け付けています。問い合わせの内容は、テーブル作成や集計・分析の依頼、BIツールの使い方に関する相談などさまざまです。
最初は1つ1つの相談に対応していればよかったのですが、徐々に依頼数が増加し、リソースが不足するようになりました。問い合わせのたびに「どのようなデータ(ログ)を取得するか」「どのようにデータをモニタリングするか」を決め、データ基盤作成や分析を行っていたため、収拾がつかなくなったのです。
部門や部署を横断して「データのあるべき姿」についての目線合わせが必要ではないかという課題が出てきました。本書で紹介されている「ディメンションとファクトのマトリックス」は作成していたのですが、まだステークホルダーに浸透しておらず、シートを見せるだけでは共通認識のすり合わせが難しい状態でした。
そういったケースでは「②要求・課題の整理」として、勉強会やワークショップによって全体像を把握するステップを挟むようにしています。例えば、プロダクト部門を対象に、プロダクトマネージャーやソフトウェアエンジニア、デザイナーなど、さまざまな職種のメンバーに集まってもらい、勉強会とワークショップを実施しました。
勉強会では、風音屋さんに「プロダクト開発におけるログ設計やモニタリングの勘所」を講義していただきました。その内容を踏まえた上でワークショップを実施しています。ワークショップでは、ログの要件定義やテストといった各工程を1つ1つ取り上げて、KPT法で「Keep」(現在できていること)「Problem」(解決したい課題)「Try」(改善アクション)を議論しました。
勉強会とワークショップを実施した結果、参加者の視野が広がりました。ログ取得やモニタリングについて相談を受けるときには「このデータがあれば自分の担当業務の要件は満たせる」というコミュニケーションが多かったのが「どういうログの取り方をしたら今後のデータ利活用において使いやすいだろうか」といった事業目線での相談へと変わっていきました。
また、新しいプロダクト施策を企画するときには、企画の初期段階からログ設計やモニタリングについて部署間で活発に相談や議論が行われるようになりました。データ利活用の「質」と「量」を高めるという目標に向かって一歩前進したのではないかと考えています。その後、徐々に「ディメンションとファクトのマトリックス」を活用できる土壌も整ってきたように思います。
ワークショップは、オンライン会議ツール「Zoom」のブレイクアウトルーム機能を使ったチーム分けや、オンラインホワイトボード「Miro」でリアルタイムに書き込みながらディスカッションを行うなど、すべてオンライン上で完結しています。図2はMiroの画面イメージです。オンラインツールを活用することで「他チームの発表資料が各自の端末で見やすい」「在宅でも参加可能となる」「記録を残せる」などメリットも多いと感じています。

図2 Miroを使ったディスカッションの様子
「③解決策の実行」では、中間テーブルやダッシュボードを実際に構築します。中間テーブルでは、本書で紹介されている「スタースキーマ」を採用しています。採用の背景には、社内のデータの複雑さに起因する問い合わせが多数よせられてきた、という理由があります。
- データ定義書が一部欠損しており、データの仕様を把握するのが難しい。
- 1,000個以上のテーブルが散在し、各部署で独自に作ったデータも混ざっている。
- データ分析時に複数のテーブルを結合すると、処理量が膨れ上がってしまう。
こうした問題に対応するため、第1ラウンドとして、「ビズリーチ」の「契約企業」に関する中間テーブルを整備しました。「7W」における「Who」に該当するディメンションです。このテーブルは2023年3月に社内に公開・告知を行いました。利活用者に向けてデータの仕様を案内するドキュメント(データカタログ)をセットで提供しています。そのときのデータ整備の工程は図3のようになります。
結果としてデータウェアハウスの利用のうち20〜25%はこの中間テーブルを利用するようになりました。2023年12月時点で1か月あたり約5,000回ほど参照されています。
図3 ラウンドごとのデータ整備工程
取り組みの実施後には「④振り返り」を行い、改善アクションにつなげます。中間テーブル整備の場合、第1ラウンドの学びを活かし、第2ラウンドを進めています。
第1ラウンドでは、リソース面で制約があったため、リードアナリストが大部分を設計しました。公開までの期間は短縮できましたが、利用者の意見を十分に反映しきれておらず、設計ノウハウの属人化といったデメリットもありました。
第2ラウンドでは、中間テーブルを利用した人たちの反応を踏まえて設計を見直しています。また、他のメンバーも設計に携わることで、スキルアップやノウハウ共有を実現し、属人化を回避しています。本書のテーマである「アジャイル」や「コラボレーション」に通じる活動ができているのではないでしょうか。
また、社内から要望の多かった「登録者」(求職者)に関する中間テーブルも、第2ラウンドで整備しています。こちらも「7W」における「Who」に該当するディメンションです。ビズリーチは「契約企業」と「登録者」をマッチングするビジネスなので、その2つの「Who」を優先的に構築しました。
本稿では「データ利活用の推進サイクル」について紹介しました。一連の活動の根底には「アジャイル」「データモデリング」「コラボレーション」という3つのキーワードがあったように思います。
- アジャイル:データ利活用者からのフィードバックを踏まえて、データウェアハウスのテーブル設計を見直し、改善サイクルを回している。
- データモデリング:「人材」と「企業」をマッチングするビジネスなので、その2つの「Who」に関する中間テーブルを優先的に構築した。
- コラボレーション:プロダクトマネージャーやデザイナーなど、社内の多様なステークホルダーと対話し、ZoomやMiroといったオンラインツールによってワークショップを実施した。
データ利活用の「質」と「量」を高めるために、引き続きこうした活動を行っていきます。今後はプロダクトへAI技術を実装するためのデータ整備など、さまざまな施策についても同じようなサイクルをスモールスタートで進めていこうとしています。その中でさらにビジネスの成果に大きく貢献できそうなものがあれば、部署横断でプロジェクト化し、多くのステークホルダーと一緒に挑戦していきたいと考えています。